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エンジェル税制完全マニュアル vol.4

完全マニュアル(後編)

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 前回までの連載で、エンジェル税制適用要件の実際については、十二分に理解できたことだろう。要件を検討し、クリアする見込みが出てきたら、いよいよ申請手続きに取り掛かる。


 この申請手続きにおいて最も重要な点は、優遇税制を受けたい年の12月末までに、金銭の払込を完了しておく必要があること、および確定申告期日までにエンジェル税制確認手続きを完了させ、必要書類を投資家に交付する必要があることである。


 申請手続きは、以前は経済産業局であったが、平成28年度より、都道府県に移管されたため、都道府県内の各担当局に申請することになる。東京都の場合は「東京都 産業労働局 商工部 創業支援課 エンジェル税制担当」だ。

 

 大まかな流れは、ベンチャー企業側が投資家ごとに都道府県担当部署宛に確認申請手続きを行い、ベンチャー企業に対して確認申請書が都道府県より送付されてくる。その確認申請書を他の確定申告添付書類と合わせて投資家に送付し、投資家は確定申告を行う、というものである。

 

 それでは、増資からエンジェル税制適用の確定申告までの流れを見てみよう。

 

事前確認手続

 

 エンジェル税制には「事前確認手続」というものがある。これは、エンジェル税制の企業側の要件を充たすことをあらかじめ確認しておくことによって、投資家側が安心して投資ができるように配慮したものである。申請から確認書の入手まで約1か月を要するため、確定申告期限が迫っている場合には利用できないが、エンジェル税制の手続きに不安ならば利用したほうがよい。


 事前確認は申請日に企業要件を充たすことの確認であるために、投資後に改めて企業要件、および投資家個人の要件を充たすことの確認申請手続きを行う必要がある。 

 

 各書面の様式については、都道府県のエンジェル税制ホームページからダウンロードできる。企業の属する県で用意されていない場合には、まずは東京都のホームページをチェックしてみよう。

 

 必要書類については、「企業の経過年数に応じた要件」のうちどの要件を充たしているのかによって異なるが、必ず必要となるのは以下の書面である。

 

・確認申請書(事前確認用)
・定款(原本証明付き)
・登記事項証明書(発行日から3か月以内の原本)
・申請日における株主名簿(原本証明付き)
・常時使用する従業員数を証する書面
(雇用保険、労災保険に関する書類、賃金台帳など)

 

 このほか、優遇税制A、Bのうちの適用する要件によっては、貸借対照表、損益計算書、事業報告書、キャッシュフロー計算書、確定申告書、法人事業概況説明書などが必要になる。前回紹介したような設立間もない会社の場合は、上記のような書類がないので、事業計画書、組織図、法人設立届出書、研究者・新事業活動従事者の略歴や担当業務内容が記載された書面が必要となる。


 このような書面一式を用意したうえで、まずはメールで必要書類を担当官宛に送信することが多いだろう。場合によっては代表者の面談を求められるケースもある。

 

 要件面で注意しなければならない点としては、外部資本要件などの資本に関する要件についても申請時点において充たしていないと、事前確認書は発行されないという点である。したがって、増資前は一人株主、増資後に外部資本要件をみたす、といった場合には、事前確認制度を利用できないことになる。

 

 それでも事前確認制度を利用したい場合には、設立時点において1/6以上の株式数を誰かに出資してもらうなどの対策が必要となるだろう。

 

※数多くの書類を提出する必要がある。

増資手続

 

 これは、エンジェル税制と直接関係するわけではないが、会社法上の手続きにのっとって適法に増資手続き(第三者割当増資)を行う。


 その際には、後にエンジェル税制確認手続きに必要な「株式申込証」と「投資契約書」の締結を忘れずに行う必要がある。


 これらの書類については、契約書に盛り込む文言が指定されているために、都道府県ホームページ、あるいは経産局ホームページから契約書様式をダウンロードして用いることになるが、租税特別措置法の条文が改正に追い付いていないケースが多い。書式については一度顧問税理士等に確認を依頼する必要があろう。


 すべての払込が完了した後には速やかに登記手続きを行う。

 

本申請手続

 

 無事に増資手続きが完了したら、いよいよ本申請だ。本申請は、各株主ごとに行うものであるために、事前確認書を取得している場合でも、改めて行う必要がある。


 事前確認制度を利用した場合の申請書類は以下の通りだ。事前確認制度を利用しない場合には、これに加えて前述にて紹介したような企業要件を充たすことを示すための書類が必要となる。

 

・確認申請書
・事前確認書
・特定新規中小企業者の要件に該当することの宣言書
・株主総会議事録等新株発行を決議した書類
・株式申込証
・払込があった通帳の写し
・登記事項証明書(増資登記完了後)
・投資契約書
・基準日における株主名簿(原本証明付)

 

 注意すべき点は、事前確認書の期限は、「当該企業の事業年度末まで」であることである。事業年度末をまたいだ場合には、期限切れとなるために、本申請時に改めて企業要件を充たすことを示す資料の提出が必要となる。

 

投資家への資料交付

 

 晴れてエンジェル税制の確認申請が完了したのちには、速やかに投資家に確定申告に添付する必要書類を送付する。送付する書類は以下のとおりだ。

 

・都道府県知事印が押印された確認書
・一定の株主に該当しないことを確認した書類
・株式異動状況明細書

 

 これらについては、様式が都道府県のホームページからダウンロードできるため、そのまま作成することになる。株式異動状況明細書については、確定申告時に求められない都道府県もあったようであるが、12月末日現在において保有している株式数を確認するために添付が必要とされている。


 

確定申告


 
 ベンチャー企業側は前項の手続きをもってすべての手続きが完了するが、投資家は最後の重要な手続きが残っている。それは期限までにきちんと確定申告を行うことだ。

 

 確定申告については、優遇税制のうちどの税制を使うか、投資時か売却時かによって申告書の別表の様式が異なっている。詳細については顧問税理士に確認するとよいだろう。

 

 

詳細は公共機関のホームページで

 

 本連載では、実務家の視点からかなり詳細なところまで、判定基準、および手続きについて解説した。スペースの都合上、各添付書式の内容や、組合を通じた投資に関する点などについては省略した。しかし、本連載を全てお読みいただいた方はエンジェル税制の達人になっていることだろう。申請時の添付書類など具体的な書類については、東京都のホームページが詳しいので参照してほしい。