オフバランスでわかる資産価値(前編)
オフバランス化の真の目的とは

2018年11月、ソフトバンク社は、かねてより同社のファンドを通じて投資していた「We Work」社への増資を決定した。その額は30億ドルにも上る。
ソフトバンク社が注目するのは、WeWork社の今までにない事業戦略であり、単に不動産を貸渡すだけではなく、ビジネスを始めるために必要なコミュニティやツールを素晴らしいデザインを付加して提供しているところにある。会員は全世界で30万人に増加し、単にスタートアップ向けのシェアオフィスから大幅に進化した。現在では社員1000人以上の企業に勤務するオフィスワーカーも多数登録しているとのことである。
このように、現在では単なる資産としての価値のみならず、さまざまな価値を付加して新たなサービスを提供する形態が増えている。今回は、資産を保有することで埋没している価値を顕在化させる「オフバランス化」に焦点をあてて、「オフバランス化」を現在のビジネス環境に合わせて再構築してみよう。
INDEX
オフバランス化とは
「オフバランス」あるいは「オフバランス化」とは、主に不動産業界や金融機関、あるいは会計人の間で使われている用語で、狭義では自社保有の不動産を売却し、売却先から不動産や動産を借り受ける(リースバック)することによって資金調達をする手法を指している。
「狭義では」と添えたのは、業界によってオフバランス化のターゲットとなる資産のイメージが異なるからである。不動産業界では、「CRE(コーポレート・リアル・エステート/商業不動産)戦略」の名のもとに企業が保有する不動産をどのように有効活用すべきか、もしくは遊休不動産をどのような方法で売却して換金するか、という視点でオフバランス化をとらえる。
一方で、金融機関・その他ファイナンス分野からの視点では、売掛債権の流動化もオフバランス化の領域に入ってくる。いわゆる売掛債権担保融資やファクタリングの分野である。
そのほか、社外の有用な経営資源を活用したり、特許、著作権、あるいはブランドなどの目に見えない資産を「オフバランス資産」ととらえ、それらをどのように活用するか、あるいはファイナンスに活用できないか、という考え方もあるようだ。
※シェアオフィスは新しい不動産の付加価値(イメージはweworkとは無関係)
オフバランス化の様々なメリット
オフバランス化による経営改善
従前の利用形態を続けながらも新たな資金調達を可能にすることがオフバランス化の目的であるが、資産売却と有利子負債の返済をセットで行うことによって総資本を圧縮し、ROA(総資本利益率)をアップさせたり、自己資本比率をアップさせることで経営改善を図るということも、オフバランス化を行う大きな理由のひとつだ。
バランスシートをスリム化することで、金融機関からの評価を改善し、新たな融資を可能にするという意味合いがある。
資産保有のリスク回避
特に不動産に言えることであるが、資産を保有することで、さまざまなコストとリスクが生まれる。
最近では地震や台風などの天災が多く、これらの修繕費用が生じるということは想像に難くないが、そのほかにも、不動産の運営維持費用、管理費用、また解体処分費用などを総合すると、建設費の2倍から3倍のコストが生じるといわれている。このように不動産を保有するときには、建設費用のみならず不動産のライフサイクルコスト(LLC)にも目を向けることが重要である。
また、これらのコストは、修繕計画に従って行われる定期的な修繕費用であれば事前に対策が可能であるが、突発的なコストも存在する。これによって、事業計画が狂ってしまうケースもある。
オフバランス化によって、これらのコストやリスクを回避することは重要な事業戦略の一つとなる。
※不動産における建築費は氷山の一角
バランスシートに埋没する価値の顕在化
保有する資産の価値は、すべてがバランスシートに適切に反映されているわけではない。
典型的なのはM&Aの場合である。企業グループ内のノンコア事業の子会社を売却する場合、子会社株式の価値と純資産との差額は、「のれん」という形で買収した会社のバランスシートに計上される。これは今まで表に現れていなかった有形・無形の資産価値が、M&Aによってバランスシート上に初めて顕在化したといえる。
このように、資産を切り離すときに外部からの評価が加わることで、新たな価値が顕在化するということはしばしば生じることである。
冒頭のWeWorkの例については、資産を切り離したわけではないが、当初より不動産を保有するという戦略をとらなかった。不動産を保有せず、不動産の利用価値や付帯するサービスに重きを置いて事業を組み立てている(今年になって、不動産を取得していこうという戦略を打ち出しているが、WeWorkが全世界にまたがる規模になっていることから、不動産から得られるキャピタルゲインにも着目した結果であろう)。
以前は「不動産の利用価値」として、不動産の価格に反映されていたはずの価値が、もはや不動産の価値とは切り離されて評価され成長しているという見方が可能となっている。
このように資産の価値、事業の価値を客観的に評価する契機となるのが、オフバランス化である。
オフバランス化が創出する価値
後編では、オフバランス化によってどのような価値が創出されるのか、またオフバランス化の方法について掘り下げていくことにしよう。そして、オフバランス化をうまく利用した現代的なビジネス手法を紹介したい。