オフバランスでわかる資産価値(後編)
前編では、オフバランス化が新しい価値を見出すきっかけになりうることについて考えた。昨今では、ソフトウエアの発達によって、インターネット環境や携帯アプリを通じてのビジネスが増えていることから、ハードを保有しての新しいビジネスはしにくくなっているのかもしれない。
しかし、ハード部分を切り分けて考えて、自らの得意分野を生かすビジネスモデルは可能である。後編では、オフバランス化の視点から見出される新しい価値について見てみよう
INDEX
バランスシートに眠った潜在価値
例えば、次のようなケースを考えてみよう
A社
・売上高 100億円
・経常利益 5億円
・保有している不動産の簿価 25億円
・想定賃料 3億円/年
A社は小売業を営んでいるが、自社で店舗(不動産)を所有しており、その簿価は合計して25億円である。仮にA社をM&Aする場合、オフバランスの視点から新たな価値を見出すことはできないだろうか?
A社の店舗不動産をいったん投資家に売却し、同時に賃借した場合(セル&リースバック)、その想定賃料は3億円/年と見積もられている。不動産の利回りとしてはいろいろな考え方があるが、仮に5%を基準に考えると、この不動産の価値はいくらと見積もられるだろうか?
正解は3億円÷5%=60億円となる。
収益還元による不動産の評価額はざっくり60億円となることから、簿価との差額である35億円のビジネスチャンスが眠っているという考え方ができる。
このような例のように、バランスシート上に眠った価値を見出すためには、オフバランス化による客観的な評価を加える必要があるのだ。
オフバランス化によるハード部分の切り離し
前項の例は単純化したものであるが、特にハード部分が重いサービス業では、オフバランス化の動きがここ5~10年の間で急速に広まっている。
例えば、ホテル、小売商業施設、ヘルスケア、物流施設などは、大きなアセット(資産)を保有するために、保有リスクを抱えながら運営していた。しかし、ここ数年でJリートやSPCを活用したオフバランス化が大幅に進行した。イオングループ、星野リゾートグループ、大江戸温泉物語などのJリート上場はその一端である。
これは、Jリートのアセット種別を多様化させるという政府の意向にも沿うものであるとともに、長期で安定収益を得たいという機関投資家のニーズにも合致するものであった。もちろん、運営者側にとっても、「不動産保有のリスクを切り離すと同時に新たな資金調達をはかる」という目的を達成できた。
※多様なアセットがファンド化されている(写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません)
このように、ハードを活用してサービスを提供する事業者であっても、ハード部分への投資は投資家に任せることによって、自らはサービスの提供というビジネスに特化でき、経営の効率化につながるということが言える。
シェアリングエコノミー、IoTビジネスとオフバランス
昨今ではAirB&BやUBERに代表されるシェアリングエコノミービジネスの台頭によって、他人の持つ遊休資産を活用してプラットホームを通じてサービスを提供するという形態が増えている。資産を抱えるリスクを外出しして、本業に徹するというビジネスモデルが成功しているという印象がある。
AirB&BやUBERは、他人が現に所有している資産をシェアする、という形態であるが、これとオフバランス化の考え方を統合すると、事業におけるハード部分については投資家が担い、ITやソフトのサービス部分については、事業者が担う、という役割分担が新しいビジネスモデルには適合しているように思える。
※ハード部分が重い産業はベンチャーが育ちにくい。
昨年はようやく日本でもベンチャーキャピタルが花開いた年であった。しかし、スタートアップの中でも、不動産や精密機械などの大型アセットを活用する事業については、イニシャルで大きな投資が必要であり、投資額の多くを大型アセットの取得部分に利用されてしまうために投資を躊躇していると聞く。また、金融機関も新しい分野に対しては腰が重く、特に最初のうちは赤字が大きいスタートアップについては融資をすることはない。
しかし、適切なリース料の設定やプロフィットシェアの方法を考案すれば、新しいリスクマネーの担い手が現れてくるように思える。
AIを搭載したロボットや無人化された店舗、ホテル、民泊施設などについては、上記のような役割分担の考え方を適用しやすい分野であるといえる。このような新たなファイナンススキームが整えば、新産業の発展に貢献するはずだ。