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ブロックチェーン・インパクト vol.7

ICOの法律上・会計上の問題

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 2018年4月、仮想通貨に関する条項を真正面から盛り込んだ「改正資金決済法」が施行された。

 

 中国、韓国がICOによる資金調達を禁止したり、またイスラム教の国々では仮想通貨自体がネガティブであったりなど、各国の規制は厳しいものになっている中で、仮想通貨の決済機能を正面から認めた法律としては踏み込んだ内容になっている。

 

 しかし、法律が施行されたからといって、日本でICOが簡単にできる、ということにはならない。

 

 今回は、仮想通貨・ICOをめぐる法律上、会計上の問題について、現時点(2018年8月)の情報をもとにまとめてみた。

 

 

日本でのICO実施・投資

 

改正資金決済法の施行

 

 日本企業のICO実施の件数は、海外での実施も含め非常に少ない。今回の改正資金決済法の施行により、ICO実施のハードルがどのようなものであるかは明らかになったが、依然高いハードルであることは間違いない。

 

 その理由は、法律上の「仮想通貨」の定義に該当する自社発行のトークンを、投資家が払い込んだビットコインやイーサリアムと交換するためには「仮想通貨交換業」の登録が必要だからだ。

 

 法律の定義としては、第2条第5項1号、2号に分かれ、1号がビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨、2号が1号に規定された仮想通貨と交換できるトークン、という形で定められている。

 

日本でのICOの実施

 

 日本でICOを実施する道は、「仮想通貨交換業」の登録を受けるか、もしくは2号仮想通貨に当たらないようにトークンの設計を行うかである。

 

 前者は、これまでの仮想通貨交換業に関する報道を見ている限りでは現実的ではないといえるだろう。仮想通貨交換業に対する監視の目は日に日に厳しくなっており、業界の最大手であっても改善命令が発動される事態となっている。

 

 後者の「2号仮想通貨に当たらないようにトークンの設計を行う」という点については2017年12月8日に「一般社団法人日本仮想通貨事業者協会」が発表した、「イニシャル・コイン・オファリングへの対応について」が参考になる。

 

 

 「具体的には、トークンの発行時点において、将来の国内又は海外の取引所への上場可能性を明示又は黙示に示唆している場合はもちろん、そのような示唆が存在しない場合であっても、発行者が、本邦通貨又は外国通貨との交換及び1号仮想通貨との交換を、トークンの技術的な設計等において、実質的に制限していないと認められる場合においては、仮想通貨に該当する可能性が高いため、仮想通貨に該当しないとする個別具体的な合理的事情がない限り、原則として、トークン発行時点において、資金決済法上の仮想通貨に該当するものとして取り扱うことが適当と考えられる。」

(以上、一般社団法人日本仮想通貨事業者協会より抜粋。)

 

 

 これに準ずると、上場を目指しているとホワイトペーパーに記載されている、あるいは、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨との交換を制限していない場合には、トークンは2号仮想通貨に該当してしまう、と解釈されてしまう恐れがある。

 

 仮に、2号仮想通貨に当たらないための技術的な設計という点でクリアしたとしても、それは投資家にとって魅力的なトークンか、という点においては疑問が残る。

 

金融商品取引法上の規制

 

 法律上の問題は、改正資金決済法にとどまらず、金融商品取引法上の集団投資スキームに該当するか、という観点からも検証されなければならない。

 

 形式上、匿名組合ファンド、あるいは投資事業組合等に該当しなくても、実質的に集団投資スキームに該当すれば、それは金融商品取引法の範疇となる。

 

 具体的には、募集行為を行う者は、第二種金融商品取引業者の登録を受けなければならない。

 

(トークンの性格によって適用される法律は異なる)

 

日本の投資家は海外のICO案件に参加できるか?

 

 一方で、日本の投資家が海外で行われているICO案件に参加できるか、という問題もあるが、これも改正資金決済法の同じ条項の問題である。

 

 つまり、日本居住者が海外のICO案件に投資する場合には、まず、⓵トークンが「仮想通貨」に当たるかを検討しなければならない。

 

 さらに、当たるとすれば②海外のICOを実施する企業が日本の「仮想通貨交換業」登録を行っていなければICO案件に投資できない、ということになっている。

 

 この点については、Tavitt co., ltd.(タイ国)が日本の金融庁と協議した経緯を公表している。これによると、

 

 

■ 日本居住者は日本の仮想通貨交換業の登録がない海外法人が実施するICOを購入してはならない。


■ 非日本居住者(海外に住む日本人)はICO購入可能。


■ 日本の仮想通貨交換業の登録がない海外法人が実施するICOは、日本居住者が購入できない体制でない場合、ICOを実施してはならない。


■ 金融庁はwavesの技術面を理解しないまま、日本居住者が購入可能な状態を継続することが資金決済法違反の状態にあると断定している


■ 日本居住者はWaves等のプラットフォームで販売されている仮想通貨を日本の仮想通貨交換業務の登録がない海外法人からは購入してはならない。


(以上、Tavitt co., ltd. Webサイトより抜粋。)

 

 

という金融庁の解釈が記載されている。

 

 ICOを行う海外企業が日本の「仮想通貨交換業」登録を行っているとは考えにくい。

 

 ICOトークンが2号仮想通貨に該当し、日本居住者がトークンを購入できる状態にあれば、当該企業は日本居住者向けに「仮想通貨交換業務」を行っていることになり、改正資金決済法違反となるということだ。

 

 したがって、金融庁の解釈によれば、日本居住者はほとんどの海外ICO案件に投資できないということになる。

 

ICOトークンの会計上の問題

 

トークンは資産?負債?資本?

 

 トークンは、多くの場合資金調達のために発行されるが、そのトークンの性格はさまざまである。

 

 資金調達、というワードだけ見ると第三者割当増資のように資本勘定、と考えるのがしっくりくるのだが、資本勘定の計上については会社法上も厳密なルールがあり、安易な計上はできない。

 

 一方で、多くのトークンはいったん発行した後は払い戻しなどの義務を負うものではないため、負債として計上するのも違和感がある。

 

 実のところ、トークンの発行を会計上どのように処理するかについては、発行されたトークンの性格上、サービスの前払いなのか、会員権なのか、単なるポイントなのかなど、どのような目的・計画で発行されたものなのかを吟味する必要があり、現在のところ事例も少ないために今後の検討課題となっている。

 

監査法人との協議が難航

 

 参考になるのは、2018年1月に決算発表を迎えたメタップスの韓国子会社の事例だ。

 

 各経済メディアでも大きく取り上げられたが、結論としては、トークンセール分は将来的には収益として認識すべきものであったということで、引き換えに払い込まれた仮想通貨は前受金として処理されたようである。しかし、その収益の認識時期等については今後の協議事項となるだろう。

 

 

改正資金決済法上の「仮想通貨」の会計処理

 

 ICOトークンについてはさまざまな特色を持たせたものがあるために、一律に会計処理を論じることはできない。しかし現在はすでに市場に流通しているものも多数存在し、ビットコインをはじめとしてすでに決済通貨として一部の店舗において機能しているものもある。

 

 ASBJ(企業会計基準委員会)ではこうした状況を受けて、2018年3月14日に「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い」を発表し、一定の指針を示した。詳しくは、ASBJの公式ホームページ等を参照されたい。

 

ICOの有用性を損なわない運用を

 

 現状ではICOは黎明期であり、これから法律上、会計上の解釈が整備されてくるであろう。ブロックチェーン技術に長けた企業はベンチャーである場合が多く、ブロックチェーンを様々な領域に活用するためには、ICOによる資金調達が重要な部分を占めることは間違いない。

 

 今後は、ICOによって発行されるトークンがビジネスモデルの中でどのような役割を果たしているかを明らかにし、単なる投機的な目的に使われないような仕組みが必要となるであろう。

 

 さて、次回は、ブロックチェーンの未来の可能性について、いくつかの活用事例を探ってみる。

 

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