ブロックチェーン・インパクト vol.8
ブロックチェーンの活用分野
これまでの連載では、多くの分量を割いてブロックチェーン技術にまつわる最も基礎的なビットコインに関することや、現在メディアを賑わせているICO(イニシャル・コイン・オファリング)についてまとめてみた。
しかし、ブロックチェーンの本丸は仮想通貨にあるのではなく、ブロックチェーンがあらゆる価値と結びついて、インターネット上で価値が迅速に取引される未来が現実に迫っているところにある。
今回からは、ブロックチェーンを活用したトークンビジネスの未来に目を向けて、どのような活用方法があるのかを探ってみたい。
INDEX
ブロックチェーン技術の発展段階
経済産業省では早くからブロックチェーンに注目し、「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)」の中で、ブロックチェーンの活用分野について詳細にまとめている。
※出典:経済産業省資料
①価値情報の移転の記録
ブロックチェーン活用の第一フェーズとしては、「価値情報(数値)の移転の記録」をブロックチェーン上で行うこと、とされる。ちょうど、ビットコインの取引が台帳たるブロックチェーンに記録されるような活用形態を指している。現在では、仮想通貨取引所なども法定され、ビジネスとしても整備されているといえるだろう。
②権利の所在と移転の記録
ブロックチェーン活用の第二フェーズとしては、「権利の所在や移転の記録」をブロックチェーン上で行うこと、とされる。これは、前項のビットコインの「数値」が「取引記録」や「権利自体」に変わったとイメージするとわかりやすい。実社会においては、中古車の今までの取引記録や修理履歴、あるいは食品のトレーサビリティ、また不動産の所有権登記をブロックチェーン上で行うような形態を指す。
③将来発生する手続きや処理の記録
ブロックチェーン活用の第三フェーズとしては、「将来発生する手続きや処理の記録」をブロックチェーン上で行うこと、とされる。一目わかりにくいが、条件やプログラム自体をブロックチェーン上に記録することで、ある条件が成就した場合には自動的に価値や権利の移転が行われる、いわゆる「スマートコントラクト」が想定されている。例えば、商品を受け取ったら代金の支払いが行われる「エスクロー取引」や、IoT機器での自動処理(洗剤がなくなったら自動的に注文される洗濯機など。注文→支払がすべて自動で行われる。)である。
※IoT(Internet of things:車、家電、マンション、家、あらゆるものがインターネットに接続され、データのやりとりが行われている状態)
以上の各発展段階を、「ブロックチェーン1.0」、「ブロックチェーン2.0」、「ブロックチェーン3.0」と表現する場合もある。各段階を経るにつれて活用の領域は無限に広がっていくだろう。
社会変革の可能性
ブロックチェーン技術は、まずは仮想通貨という武器で、金融業界に大きなインパクトをもたらした。既存の金融機関や各国の中央銀行までもその動向に注目せざるを得ない状況だ。では金融以外でのほかの分野への応用により、現在の社会はどのように変わっていくのだろうか。そのポイントを経済産業省の資料を基にまとめてみた。
価値の流通・ポイント化・プラットホームのインフラ化
この分野は、仮想通貨の延長線上にある地域通貨や電子クーポン、ポイントサービスなどをブロックチェーン上で管理しようとするものである。
今までとの違いは、ポイントの取引データの記録が自動化されるため、さまざまな場所で使われるポイント等の管理が一元化され、省力化と情報伝達の時間短縮につながる、というものである。しかし、これだけでは利用者にとっては今までのポイントサービスや地域振興券とあまり変わりがない。省力化による費用の低減を利用者にどれほど還元できるか、というところが焦点となり、この利用方法だけでは大きなインパクトはなさそうだ。
権利証明行為の非中央集権化の実現
これは、いわゆる登記による証明行為や、医療機関の電子カルテの共有、各種行政サービスの登録行為(出生・婚姻・転居など)をブロックチェーン上で行うというものである。
今までは、このような証明行為の信頼の相手は、行政や法務局であったが、ブロックチェーンの最大の特徴である「改ざんの困難性」から、信頼の相手方が「ブロックチェーンによって自動的に運営されるシステムそのもの」に変わったことから可能となった新しい分野であるといえる。
利用者からすれば、病院によってカルテを作成するための「初診料」や「おくすり手帳」が不要となり、今までの履歴などがブロックチェーン上に記録されることになる。保険会社との連携によって、生命保険料が安くなったりするかもしれない。また大がかりな法律の改正は必要だが、将来的に行政サービスに適用されれば、紙申請主体の行政窓口サービスは激減し、利便性は向上するだろう。
遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
メルカリなどに代表される「C2Cビジネス」におけるシェアリングサービスに応用する分野である。具体的には、デジタル資産の利用権の移転やコンサートチケットの転売、モノのトレーサビリティ、さらに利用者の評価履歴などをブロックチェーン上に記録するものである。
これも有望な利用先であり、チケット発行者や利用者にとっては、高額な転売益を狙うダフ屋がなくなったり、ネット詐欺、違法ダウンロード、著作権侵害となる音楽や映像のアップロードもなくなったりするだろう。またデジタルコンテンツの利用権の移転を発行者側が管理することも可能である。
オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
小売りや貴金属、美術品のトレーサビリティを想定している。今までは、保証書や鑑定書、あるいはブランドを頼りに購入していたものについて、その出どころが明らかになることによって信頼のおけるものを購入することができる。
実用化されているものとしては食品の安全を守るため、その流通経路をブロックチェーン上に記録するなどの試みがなされているが、費用対効果の問題でそこまでする必要があるか、というところはある。
また、貴金属や美術品の認証については、日本ではブランドや美術品商を信頼して購入するケースが多いと思うが、ことに海外に目を向ければ、偽物・贋作にあふれていることは容易に想像がつく。また、これらはマネーロンダリングに利用され、麻薬の密売や武器の売買に利用されるケースも多いと聞く。ブロックチェーン技術はそれらの防止に大いに役立つであろう。
※宝石・貴金属のトレーサビリティについてはすでにブロックチェーンによる実用化が進んでいる。
プロセス・取引の全自動化・効率化の実現
この分野のブロックチェーンの活用は未知数で、あらゆる分野への活用が想定される。とくにサービスと決済(支払)が一体化することで、今までのように磁気カードを専用の端末に通したり、小銭を数えて支払う、ということがなくなるかもしれない。
資料によれば、遺言の自動執行、IoTとの連携、などを想定しているが、「なんらかのサービス」という価値がトークン化され、その価値の移転とともに自動的に特有の仮想通貨で決済される、という状況は、どのようなサービスでも展開できる。
特に取引が複雑で数多くなされるような形態、例えば電力におけるデマンドレスポンス(電力がひっ迫しているときに電力消費量を抑えることを要請し、要請を受けた者には電気料金を安くするなどのインセンティブを用意するもの)など、今まではあまりに複雑すぎて実現が難しかった分野にも、応用が可能になるかもしれない。
どれが実現可能?
上記のものには技術的には実現可能であったとしても、今までの実社会をもとに制定された法律が邪魔し、実現に至らないものも数多くあろう。次回ブロックチェーンを利用することによって可能となるビジネスが、どのようにマネタイズされるのか、という点について考察を加えたい。