ブロックチェーン・インパクト vol.9
マネタイズ手段は?
本日、各種メディアにて、LINEのブロックチェーンを用いた新しいサービスが発表された。発行するトークンは、主にプラットホーム参加ユーザーへのインセンティブとして利用されるようだ。
中には集合知の正しさを証明するような予測サイト「4cast」のようなものもあり、今からワクワクする。
さて、前回のコラムでは、経産省が描いたブロックチェーンの活用分野について、まとめてみた。この中には、日本で行うには大規模な法改正が必要となるものや、大きな行政サービス機構の変更を伴うものも含まれている。
また、多くの実証実験が行われたサービスについては、何もブロックチェーン技術を使う必要のないサービスに無理やりブロックチェーンを応用したものであるとか、ブロックチェーン技術のコストが極限まで下がらないと応用できないだろうと予測できるようなビジネスモデルなども散見される。
現在は勃興期であることから、いろいろなものに使ってみよう、という潮流が生まれていることについては大いに称賛されるべきであろう。しかし、ビジネスとして成り立たなければ新しい技術が広まっていくことはない。
今回は、ブロックチェーンが特にビジネスモデルとしてどのようにマネタイズされているのかに焦点をあててまとめてみる。
どのようにマネタイズするのか?
既存ビジネスへの適用と新たなビジネスモデルの創造
ブロックチェーン技術の実証実験や活用例などを検討していると、そのビジネスモデルは2つに分けられる。
既存のビジネスモデルの省力化
一つは、既存のビジネスモデルでの作業をブロックチェーンに置き換えて自動化し、作業の省力化を図るものである。このビジネスモデルでは、主にサービスと決済手段が一体化することで、劇的なユーザビリティの変化をもたらす。
例えば、スマホで鍵が開けられるスマートキーなどのアプリと決済手段である仮想通貨を組み合わせることで、物理的な「鍵」の受け渡しおよび現金やカードの支払い、といった手続きをなくそうとするものがある。
また、カーシェアや民泊、スペース活用などのシェアリングエコノミー分野においても同様の発想から、サービス提供から決済までを一つのプラットホームで実現しようとするものがある。今までサービス提供と支払いが分離されていた分野についてはこれらがすべて一体化する。
これは、ブロックチェーン技術の「二重払いリスクがない」という特徴と「ブロックチェーンの中に特定の支払発動条件などの契約条件を埋め込むことができる」という特徴(いわゆるスマートコントラクト)を有効に活用した結果である。
新たなビジネスモデルの創造
ブロックチェーン技術の大きな特徴の一つである「価値のトークン化」により、新たなコンテンツや、いままで価値として見られなかったものなども、一定の価値のあるものとして取引できるようになった。
後に紹介する投票券のような意味合いを持つトークンは、自分の気に入ったアートや音楽が新たな価値を持つことに貢献する。また、トークン化によってトレーサビリティ(その商品の流通経路がわかること)が容易に把握できるようになったため、商品の付加価値を上げて販売する、ということも試みられている。
マネタイズ手段のあれこれ
現在は様々なビジネスモデルへの適用を模索している段階であるために、決まったマネタイズ手段があるわけではない。サービスローンチ当初は広告モデルとの併用だと思われるが、次第に広告モデルに頼らないプラットホームビジネスモデルが、少しずつ具体化されるといっていいだろう。主なマネタイズ手段は以下のとおりである。
1、 システム導入の手数料やコンサルティングなどのイニシャル報酬・保守費用
既存ビジネスに応用する場合にはほとんどがSaaSモデル(グーグルAppsやセールスフォースのように、アプリケーションを提供する代わりに月額利用料を支払うもの)やシステム開発における報酬などと同じようなマネタイズ手段となる。
つまり、開発費用としてイニシャル報酬を受け取るとともに、日々の保守管理、バージョンアップに伴う改修などにより、収益を得る方法である。この方法による場合は、開発費とブロックチェーンの応用によって得られる利益とを比べてメリットがあるか?、ということを考えることになる。
しかしながら、既存の記録システムがブロックチェーンに変わるだけで新しい体験をもたらすものではないために、コスト倒れになることが多いのではないだろうか。
2、 トークンによって価値が明らかとなった商品の販売手数料
いわゆるマーケットプレイスの提供によるマネタイズである。今までに価値が認められにくかったものが実際に販売された場合には、商品の販売時に販売手数料をもらうというものである。
伝統的なマネタイズ方法であるが、新たな価値を創造したうちの数パーセントをプラットホーム側が受け取る、というのは理にかなっている。トークンの発行により独自の経済圏が確立されているために、手数料の受け取り方はトークンで受け取る場合が多いだろう。
3、 権利証明情報やトレーサビリティ情報の提供による情報料
今までのビジネスになぞらえれば、鑑定書の発行手数料や、データベース閲覧費用に似ている。例えば、デジタルコンテンツの所有権をブロックチェーン上に記録する「ascribe」(ドイツ)では、自らをマーケットプレイスの運営者とはせず、デジタルコンテンツを守る立場として他のマーケットプレイス運営者に情報を提供することでマネタイズしているようだ。
4、 トークン発行にかかわる収益
トークンの発行は、証券会社等が間で募集の仲介などを行うことなく、独自のアナウン スによって行われる。そのトークンの価値は、発行側が独自に決められるために、発行価額によって利益を生み出すことが可能となる。(もっとも、改正資金決済法や金融商品取引法などの法制には留意する必要があるし、現在の日本の法制上では現実的に難しい面もあるが、今後の制度面での整備が待たれるところではある)。
例えば、Artlery(アメリカ)はアートに関する投票権のようなものをトークン化し、フェイスブックの「いいね!」のようにアートに投票すると、そのアートが売れたときに収益の分配を受けられたり、SNSで紹介できたりすることが可能になるというアートのマーケットプレイスを運営している。
これは、新しいコミュニティを創造するとともに新しい価値を創造することの応援ツールとしてブロックチェーン技術を応用した好例と言えよう。
どのように価値を生み出すのかがポイント
新しい技術が生み出された時には、ニーズより技術が先行してしまい、まったくニーズのないところに技術が応用されて失敗する、というケースは多い。様々なブロックチェーンビジネスを検討したものの「どのようなニーズを解決するのか」というところに戻って検証したほうがいいのではないか、というビジネスも多く存在した。
しかし、Artlery(アメリカ)の例のように、新しい価値のあるものを生み出すツールとして有益な使い方も存在することから、今後はこのような視点からの応用分野が多くなるのではないかと考えられる。
次回は連載の最終回として、これからのブロックチェーンビジネスの展望を探ってみたい。
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